第2回ショートショート大賞は、2016年11月1日に作品の募集を開始し、2017年2月15日に締め切りました。
応募総数 4,578篇。第1次審査通過作品は100篇、第2次審査通過作品は30篇。
5月9日に最終審査会を開催し、大賞1作、優秀賞3作を決定しました。
大賞
『桂子ちゃん』
優秀賞
- 『超舌(ちょうぜつ)食堂』
- 『今すぐ寄付して。』
- 『ヤンタマ』
最終審査作品(30篇)
「卵を割る才能」山田田田/「優しい噓」日島まさみ/「無限リビング」五条紀夫/「超舌食堂」恵誕/「忘れ物」石黒みなみ/「ヤンタマ」長野良映/「反省文」月並ハイジ/「虹の種」小狐裕介/「わたしコンビニ」小狐裕介/「葬式ラプソディ」南崎宏/「桂子ちゃん」洛田二十日/「想像力の罪」吉崎裕樹/「青い財布」林大木/「今すぐ寄付して。」滝沢朱音/「食洗人間」南口昌平/「再会」志水孝敏/「幸せ提供家」今栄月里/「傾いた地蔵」藤本直/「強盗だろうか」森山大輔/「雲の糸」大西裕子/「ゆめくじら」桜瀬ほたる/「はよ行け桃太郎」山岐信/「コタツムリ」やまぐちりさ/「おかあさんカタログ」杉山真弓/「はんにん」林大木/「弁当の向こう側」恵誕/「義師」洛田二十日/「路傍の飴玉を守る会」竹内咲/他2篇
桂子ちゃん 洛田 二十日
受賞のことば
講評
田丸雅智(審査員長)
女性ならではといえる題材に、やや男性寄りの「将棋」という題材を非常にうまくブレンドされており、何の説明もなく急にはじまる不条理な世界なのですが、まったく違和感なく入りこむことができました。随所に光る冗長になり過ぎない程度に肉付けされた描写も絶妙に本筋を盛り上げる役割を果たしており、所々で覗くユーモアも素晴らしく、疑問を差し挟む余地もなく一気に最後まで読まされます。作者が男性と知り、なお驚きました。将棋についての多少の事前知識は必要かもしれませんが、アイデアと筆力の両方が突出した傑作であることに違いはありません。今後、どのようなアイデアで、どんな世界に連れて行ってくれるのか、本当に楽しみです。
キノブックス編集部
主人公のキャラクターが作品を通していきいきと伝わってきた。また、全体を通して常にユーモアが感じられ、終始愉快な気分で読むことができた。女性特有の体調の変化と将棋のルールを組み合わせたアイデアもおもしろかった。おもしろかったが、それぞれの駒になる理由についてもう少し触れてあるとなおよかったか。作者は意外にも男性。「子供の残したプリンアラモードみたいに」ぐちゃつく頭、「アイスコーヒーの氷みたいに」気持ちがカランと響いた、などの表現も女性的と感じたが、読み手に違和感なくそう思い込ませてしまう筆力は確か。ほのぼのとした結末になるのかと思いきや、しっかりユーモアで落としているところも抜け目がなく、これからが楽しみな書き手だ。
超舌(ちょうぜつ)食堂 恵誕
受賞のことば
講評
田丸雅智(審査員長)
アイデアが泉のように尽きることなく「これでもか」というほど溢れてきて、読むだけで自分の世界が広がっていくような、ワクワクした気持ちになりました。次はどんな展開になるのだろうかとつい期待してしまうのですが、軽くそれを凌駕してくる手腕にはお手上げです。そして何より極上なのが、最後の二文。「そうきたか!」と思うと同時に笑わされ、秀逸です。次回作でアイデアが炸裂する様子も、ぜひ見させていただきたいと強く思わされました。
キノブックス編集部
勢いがある作品で、一気に読まされた。仙台の名物である牛タンを題材にユニークな物語を展開しているのだが、せっかくご当地ネタを扱うのであれば、もっとその土地の雰囲気を感じさせる描写がほしかった。また意図的なのかそうでないのか、思わせぶりな部分を回収していない箇所があり、そこも気になった。とはいえ、主人公の職業であるホストからイメージされる軽さと作風がよく合っていて、全体としては短い中に多くのセンスを感じさせるレベルの高い作品と感じた。特に最後は、おもしろい漫才師のオチのように見事。
今すぐ寄付して。 滝沢 朱音
受賞のことば
講評
田丸雅智(審査員長)
命をやり取りするというアイデア自体は珍しくありませんが、現実世界の「Facebook」と掛けて次々と繰りだされるアイデアには脱帽しました。「現実に存在するものに掛ける」という手法は、やり過ぎると強引さを伴うことも多いのですが、筆力ゆえにまったく感じさせません。結末にもうひとひねりあってもよいかと感じましたが、物語の展開がある程度推察できても読ませられる、とてもおもしろい作品でした。
キノブックス編集部
今しか書けないテーマを非常にうまく活用できた好例といえるだろう。こういうアイデアは得てして読み手の興を削いでしまうが、SNSの機能や特性が無理なく内容に生かされているのでリアリティを伴って読めるし、文章もよどみなく書かれていて純粋に物語を楽しむことができた。この先、こんなことが実際にできるようになったらと思うとぞっとしてしまうが、このアプリが巻き起こす人間ドラマでいくらでも作品が書けそうだ。ただ、テーマが普遍性に欠けているだけに、ほかにどんな作品が書けるか、今後に期待したい。
ヤンタマ 長野 良映
受賞のことば
講評
田丸雅智(審査員長)
個人的には一番楽しませていただいた作品かもしれません。まず、野球の「死」を実際の死と掛けたアイデアが秀逸で、そこからのアイデアの広げ方も素晴らしいです。野球というテーマゆえに好みが分かれる作品かとは思いますが、ハマればシビれるほどおもしろく、そこここに漂うユーモアセンスもたまりません。ぜひ他の作品も読ませていただきたいと思いました。
キノブックス編集部
野球がテーマなのに試合の様子や選手の心理描写などは一切出てこず、意外なところに目を付けている。野球好きならきっと無条件で気に入ってしまう作品だろう。タイトルにもなっている「ヤンタマ」というネーミングもかわいらしく、だんだんその存在が愛おしくなってくる。一死、二死、死球などの野球用語を使うアイデアのほか、マウンドの形や甲子園のジンクスの生かし方もうまかった。特別なインパクトはないのにこうして最終選考まで残り、受賞に至ったのは心に届く何かがあったのだろう。この書き手も、これからどんな作品を読ませてくれるのか楽しみだ。
田丸雅智
(審査員長)
まずは応募してくださったみなさまへ、関係者を代表して深く御礼を申し上げます。第一回に勝るとも劣らない作品の数々に、ショートショートというジャンルの幅の広さ、懐の深さを、今年も強く感じることができました。
キノブックス編集部の方々と行った最終審査会も、昨年同様、およそ半日にも及ぶ白熱したものとなり、最後までどうなるか分からないという緊張状態の中で審査させていただきました。その結果は受賞作をお読みいただくのが一番ですが、今年も自信をもってお届けできる作品が出揃ったと、審査員一同、自負しています。受賞者のみなさまは、ぜひショートショートの新たな可能性を広げていくべく、ご自身の道を見定め、究めていっていただきたいと思います。
また、このショートショート大賞は「原稿用紙一枚でも、小説だ。」という文言を掲げている賞ですが、じつは今年は文字通り、原稿用紙一枚の作品も最終審査に残っていました。残念ながら最終的に選外となってはしまいましたが、長い作品が必ずしもよいわけではなく、短いがゆえにできることもたくさんあるのだと、この事実を通じてショートショートの可能性をお伝えできればうれしいです。
一方で、応募作全体で見てみますと、ありふれた題材をもとに書かれた作品は減少傾向に思われましたが、構成や結末の付け方がクラシカル(古典的)で、既視感の強い作品も散見されたように感じます。たとえば、ショートショートの王道の構成、結末のひとつに、「じつは自分もそうでした」というものがあります。「じつは自分もアンドロイドでした」「じつは自分こそが、相手の説明している通りの存在でした」など、バリエーションはいくつかありますが、これらは一冊の著作の中に紛れている分にはおもしろいのですが、賞を狙う上では新味に欠けやすい傾向があり、挑戦する際には注意が必要です。その点、「この作品は、あまたある作品の中で本当に大賞を狙える作品か?」という問いを、常に己へ投げかけることは重要だと思います。また、二次創作ものも多く見られましたが、同じ理由で、もし挑戦する場合は、先行作品に負けない絶対的な強みが宿っているかどうかを自問自答していただければと思います。
さて、次回はいったい、どんな作品を拝読できるのか──いまから早くもワクワクしつつ。
みなさま、本当にありがとうございました。
太田忠司
今年も力作がたくさん届きました。
読むのはすこぶる楽しいのですが、それに点数を付けるのはとても難しく、心苦しいものでした。どの作品も作者にとってはかけがえのないものであることは、実作者として痛いほどわかっているからです。でも賞というのは、そういうものです。優劣は付けなければならない。自分の価値基準に従い、判断しました。
読んでいて思ったのは、ショートショートも小説である以上、時代を反映するのだなということ。非正規の労働者や働くお母さんなどを登場させる作品が印象に残りました。
アイディアとしては昔から馴染みのあるものが散見されました。そういうアイディアを使う場合、独自のストーリーテリングが必要になります。でないと「そんなの、もう何度も読んでるよ」と思われてしまいます。新しくなくてもいいのです。これまでと違うものを書いてください。
梶尾真治
初めてショートショート大賞の審査員に加えて頂き、素晴らしい時間を過ごすことができました。まだ興奮がおさまらずにいます。そして、あらためて応募作品の質の高さに舌を巻いています。
正直、作品のレベルはほとんど差がありません。共通するのは作品の短さだけ。どこで勝負をかけてくるのかは、作者の感性でまったく異なります。奇妙な舞台や世界を描写することに重きを置かれる方もいれば、社会の常識をずらして描いてみようという方もおられました。ショートショートの王道で、最後の数行でそれまでの価値観を天と地ほど引っくり返そうと挑んでいる方もおられました。
どなたも正解だと思います。
私は迷った挙句に、読後いつまでも脳裏に焼きついて忘れられない作品に高得点を差し上げています。それがどうも私の好みの作品のようです。惜しくも入選を逃された皆さま。諦めずに。次回は、あなたの番かもしれません。
北野勇作
去年に引き続き審査させてもらいました。当たり前ですが、小説はスポーツと違って数字で明確に優劣を決めることなどできなくて、でもそれが小説のいちばん面白いところだと思います。審査しておいてこんなことを言うのはなんですが、ある程度まで欠点は指摘できますが結局その先は、これまで読んできたものによって自分の中に作られた「好み」でしかないような気がします。だから他人の評価に従う必要はありません。決めるのはあくまでも自分です。無責任な意見に思えるでしょうが、まあ小説の評価なんてそんなものでしょう。無責任に読んで無責任に書いて、自分が従ってもいいと思える意見や評価だけを取り入れればいいと思います。私はそうしてきました。私に言えるのは、自分が感じる面白さに従ってください、ということだけです。
「第2回ショートショート大賞受賞作品集」は
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(2017年6月14日現在)