第3回ショートショート大賞は、2017年11月1日に作品の募集を開始し、2018年1月31日に締め切りました。
応募総数 4,633篇。第1次審査通過作品は92篇、第2次審査通過作品は30篇。
5月14日に最終審査会を開催し、大賞1作、優秀賞3作を決定しました。
そして今回、はじめて2次審査員の方々による特別賞を選出いたしました。
『スカートの揺れ方』
『「名たんてい 赤塚れい子のじけん薄」を読んで』
『ぬか床ラヴァー』
『孕む壁』
新井素子賞 『祝日』林 大木
太田忠司賞 『潜水艦ゲーム』いげた ゆかり
梶尾真治賞 『鏡の中の女』柴田 富之
北野勇作賞 『オートボタン』牧瀬るい
「カモン、ムスメサンヲボクニクダサイ」見鳥望/「強盗コンビニ」佐賀砂有信/「ストレス・ストレッサー・ストレスフリー」溝口智子/「「名たんてい 赤塚れい子のじけん薄」を読んで」the world is wide/「長いかくれんぼ」太月よう/「おとななまはげ」新田塚道雄/「祝日」林大木/「ぬか床ラヴァー」霜月透子/「雪夜の乗合」射矢らた/「鏡の中の女」柴田富之/「夢実堂」松山帖句/「ゆるキャラ」朋川真生/「小市民」須堂修一/「オールクリアー」佐賀砂有信/「音引き犯」シモカワヨウヘイ/「孕む壁」山岐信/「潜水艦ゲーム」いげたゆかり/「棒人間スキル」五条紀夫/「スカートの揺れ方」灰谷魚/「二番目のダメ人間」山岐信/「時速8キロの誕生日」秋鷹喬志/「誰なんだ?」山口京哉/「あれ」慧美/「モジガミさま」青砥瑛/「腹白い」夢煮イドミ/「私の誕生日」深谷勇/「痣」岩田謙一/「話し合い」林大木/「オートボタン」牧瀬るい/他1篇
熊本県出身。熊本の高校、都内の大学を卒業。その後は関東をうろうろしつつ、ささやかな活動やささやかな生活、ささやかな収支、怠惰、清貧、浪費、反省、怠惰、満腹、空腹、憂鬱、爆笑、微笑、茫然自失、などなどを経て、現在は神奈川県で怠惰に過ごす。喫茶店が好き。
「ショートショート大賞」の響きには「ショー」という音が3つも含まれています。これが「ショートショート大賞受賞」になるともっと凄い。なんと4つもの「ショー」が隠されているのです。嬉しい。楽しい。思わず僕が「ショートショート大賞受賞、そっとそっとmy soul無双」などと韻を踏んでしまったのも無理からぬこと(酷いな……)。立派な賞をいただいたので、いつまでも浮かれてないで頑張ろうと思います。
かつて経験したことがないほど、強烈に印象に残った作品でした。前提知識がないとよく分からない言葉も出てきますが、知識がなくとも問題なく楽しめるのは筆力です。登場人物たちの会話のユーモアセンスも抜群で、何度読んでも噴き出して笑ってしまいます。そして、スカートが燃えあがるシーンが圧巻で、呆然とさせられました。結末は一考の余地があるかもしれませんが、ショートショートの新境地を切り開きうる作品かもしれないと強く感じました。あるいは、それはただの錯覚かもしれませんが、そう感じさせるほど力を持った作品に可能性を賭けてみたいと決断しました。本作の反響が楽しみであり、新作も楽しみです。
「短くて不思議な物語」であることに疑いはない。それらしいオチで締めているわけではないが、読後にふわふわした不思議な感覚を残す。現実世界を舞台に描けば「皮膚とスカートが一体化する」出来事は異様であり、際立つはずだが、「まあ、そんなこともあるよね」というくらいのノリで扱われ、それが登場人物二人のいきいきとした「今っぽさ」を伝えるのと同時に、異様な出来事そのものではなく、その外側で「不思議」を作りだすことに成功している。だから終始、ふわふわ気分の中で作品を楽しんだ。新しい、と感じた。言葉選び、リズム感、キャラクター設定、そして作品タイトルなど、非常に繊細な演出がされていて、これが感覚ならすごいし、計算ならもっとすごい。面白いショートショートに出合えた。
1981年生まれ。長野県出身。松本市立岡田小学校に2年生まで通う。蕎麦とコーヒーと、レモンが好物。小説を書きながら、いつかコーヒーと目玉焼きと古道具を売る店を建てるのが夢。店の名は「the world is wide」。店の庭にはレモンの木があかるく実って灯っているといい。
いわゆる長編小説が2時間越えのミュージカルとかオペラみたいなものだとするなら、自分の短編小説は3分45秒の切れ味鋭いロックンロールでありたいと思います。受賞というチャンスを糧により一層励みたいと思います。ありがとうございました。
読書感想文の体裁ですが、対象になっている架空の本の内容が絶妙で、読まされます。そして、物語の途中から現実と非現実との境が曖昧になり、それに伴い言葉遣いも急激に変化していき頭が混乱させられるのですが、かえってぐんぐん引き込まれます。さらに、そこからまた元の言葉遣いに戻ってきて、すべてが曖昧なまま終わり、もやもやした気持ちが長く心に残り忘れられない作品になりました。一方で、結末にもうひとひねりがあってもよかったかもしれません。
大人が子どもの文章を真似て書くのは難しい。えてしてわざとらしくなるものだが、まずそこで引っかからない技術が光る。「ぼく」が成長するにつれて感想文から拙さがなくなり、漢字が増えていく。こういう細部の見せ方も読み手を物語に引き込むのに効果的だ。素直に読めば、「恩返し」の話、ということだろう。ただ、何一つはっきりと説明していないため、本の世界に迷い込むファンタジーのようにも、あるいは時空を超えたラブストーリーのようにも、そして夢と現実を行き来する冒険譚のようにも読め、繰り返し読みたくなる魅力がある。さらには謎解きの要素まで。何かの形(当作は読書感想文)を借りた一人称の作品は多くあるが、短い中でこれだけ様々な要素が詰まった魅力的な作品はなかなかないだろう。
神奈川県横浜市出身、在住。2014年、小説投稿サイトにて創作活動開始。過去にブックショートアワード優秀賞など。2017年、アンソロジー『恋テロ 真夜中に読みたい20人のトキメク物語』(富士見L文庫)に短編「初デートは水族館で」収録。
この度は優秀賞をいただき光栄です。審査に関わってくださったみなさまに心より感謝申し上げます。子供のころに読んだショートショートが怖かったため、長らく苦手意識を持っておりました。最近になって、それほど深い印象を残す一編であったのだと気づき、ふたたびショートショートを読み始めました。小さなお話が持つ大きな可能性に出会えたことを嬉しく思います。すべての出会いに感謝をこめて。
いびつなニンジンに手の形を見出した着眼点が素晴らしかったです。その後の展開は、いわばショートショートの王道で、読んでいて安心感がありました。一方で、コアアイデアが登場するまでがやや冗長で、洗練の余地が多くあります。また、王道であるからこそ展開が読みやすく、少しインパクトに欠けるところがありました。その点、今後の伸びしろとして期待しています。
全体を通じてコミカル。読み終えてふと我に返ると顔が笑っていた。特に主人公が泣くシーンは、オチも含めてうまかった。そのものの魅力か、あるいは語感の面白さか理由はよくわからないが、「ぬか」は応募作にときどき見られる隠れた人気テーマだ。はっきり言えばこれといって特徴がない作品なのだが、非常に素直な文章で読みやすく、その素直さが、どこにでもいそうでありながら程よく魅力的な主人公が目立ち過ぎずに、より重要な野菜たちのキャラクターがちゃんと立っている理由だろう。あとは「彼」が大根に惹かれてしまう必然性をもう少し描きこめればより評価できる作品になったのではと思うが、レベルが高いという印象に変わりはない。
1993年生まれ。東京都出身。「公募ガイド」のTO-BE小説工房で第36回最優秀賞受賞。趣味は映画鑑賞。
優秀賞に選んでいただき、大変うれしく思います。審査員の先生方、読んでくださった皆さま、事務局の皆さま、本当にありがとうございます。
物語を初めて書いたのは、小学1年生の時です。連絡帳に書きました。それからというもの、文章を書くという行為に私自身が支えられ、生かされてきました。ショートショートを書くようになったのは最近ですが、他のジャンル同様、愛しています。出会えてよかったです。
壁をモチーフにした作品である点や、何かが子供を産むという着想自体は珍しくありませんが、そこからの展開の仕方が素晴らしい作品でした。壁の特徴と妊娠の特徴を掛けたアイデアの数々には脱帽です。そして、細部に光るユーモアセンスがとてもよく、読んでいて何度もニヤニヤさせられました。楽しむためにはある程度の前提知識が必要かもしれませんが、それを補って余りうる完成度の高さ。ラスト一文の切れ味もお見事です。
話す、何かいる、動く、飲み込むなど、壁は物語を創作するのになにかと使い勝手がいい。作者は、宗教的な仕掛けと登場人物たちのコントのようなばかばかしいやり取りによって、使い古された題材でも読み手の印象に残る作品になるということを証明してみせた。物品が何かを孕むという設定もありふれているが、壁そのものに意思がなく、話の都合上必要なただの道具でしかないことも奏功している。言葉遊びを駆使したと言えるほどの知的さはなく、コントのような展開も含めて結末までこのテンションだと受賞は難しかったかもしれないが、壁が妊娠するに至った仕掛けが高度だったために、最終的には全てが肯定された。いや、いささか大げさか。
何て可愛い作品なんだ!
主人公の家のカレンダーの五月五日が、いきなり「家出するこどもの日」になってしまい、同時に、日本全国のカレンダーから“こどもの日”が忽然と消えてしまう。主人公はカレンダーを調べ、七月十七日の「海の日」をみつける。主人公のカレンダーでは、「海の日」が、「海で泳ぐこどもの日」になっていたのだ。
と、ここまでは、ショートショートとして普通の進行。けど、ここで、作者、すんごいことを書いてくれたのだ。
「なるほど、ほかの祝日にかくまってもらっているのか」
この一行を読んだ瞬間、やられました、私。家出したこどもが、他の祝日に“匿って”貰っているって発想、凄いわこれ。
大好きです。その後のこどもの動きも、とっても可愛い。オチもいい。
特別賞に推したいと思います。
ショートショートくらいの長さだと登場人物は多くできない。やはりふたりでの会話が理想的です。でも、ただ会話を続けているだけで面白みを出すのは、なかなか難しい。
しかしこの作品は、ただふたりが会話をしているだけなのに、すこぶる面白いのです。
ひょんなことからバス停前で夜を明かすこととなった語り手と老人。始発のバスが来るまでの時間潰しに老人が提案したのが潜水艦ゲームなのですが、これが単純なようでいて、結構ややこしい。しかも老人のヒントの出し方が絶妙に意地悪で、語り手はすっかり翻弄されてしまいます。この作品の肝は、老人の手管と語り手の反応の面白さだと思います。
しかもラストでは、このゲームが語り手の抱えていた問題にひとつの答えを提示するために行われていたことがわかる。巧い、と思わず膝を打ちたくなりました。
是非とも多くの方に読んでいただきたいと思います。
梶尾真治が選ぶ一篇として「鏡の中の女」を選ばせて頂きます。ショートショートも、さまざまな味わいの作品があります。作品内を彩る情緒に重きを置いて評価される方もあれば、皮肉で予想外な結末がなければショートショートに非ずとおっしゃる方もおられるでしょう。もう、これは個人の好みの問題でしかないのです。
私の大好きなショートショートにアンドレ・モーロワの「夢の家」があります。同じ家が毎夜夢に出てくる女性が、ある日通りすがりにその家を発見する。訪ねると、その家には幽霊が出るという。どんな?と尋ねると「あなたですよ」と。
本作は、その「夢の家」に通じる意外性と主人公の人生を感じさせる深ささえ備えているようです。最後の一行には呻ってしまったほどです。まさに、私の好みに、どん・ぴしゃりな作品でした。素晴らしい。
ある状況に陥った主人公の心理が、とても正確に想像されている。ありそうなアイデアだが、ただアイデアだけで書いたのではとてもこうはならない。
さらりと書かれているように見えて、こういうことが起きたとき、人は当然こう考えるだろうし、そしてこんな行動をとるだろう、というプロセスが過不足なく的確に書き込まれている。主人公が、ただ小説の都合で動かされているのではなく、ちゃんと肉体の感覚を持って自律して動いている。ひとつひとつの状況の変化のステップにも無理がなく、無駄がない。語りがうまいし、主人公がどういう状況で誰に語っているか、という謎がそのままきれいにオチにつながるのも上手い。
最初から最後まで、とてもおもしろく読まされました。
第1回、第2回と回を重ねるごとに応募作全体のレベルが確実に上がっており、とても読み応えがあり審査をしていて楽しかったです。 応募してくださったみなさまに感謝を申し上げます。
さて、今回の最終審査会は、予定時間を超過するほど過去最高にヒートアップしたものになりました。どの作品も世界観がよく練られていて、評価が拮抗した作品がいくつもあったのが正直なところです。そんな中、大賞作品は最終的に満場一致で決定したのですが、果たしてこの作品はショートショート と言えるのか、言えるとしたら本当に新境地を切り開きうる「本物」なのか、盛んな議論が交わされました。本作はこれからのショートショートの可能性を考えるのにいいきっかけとなる作品であり、もしかしたら賛否が分かれることもあるかもしれません。ぜひ、みなさまにも作品を味わってもらい、周囲の人たちと議論をしてみていただきたいと思います。それがまた、ショートショート全体を盛り上げることにつながればと願っています。
他方、今回は第1回の優秀賞「紙魚の沼」の類似アイデアが前回よりも多数見られました。もちろん、同作の仕掛けの巧みさ、わかりやすさなどの優れた点を超える作品であるならば受賞の可能性は出てきますが、そうでない場合はとても不利に働きます。また、AIやVRをテーマにした作品も多く見られましたが、こうした時代性のあるテーマは類似作品が出やすく、その中で頭一つ抜けるためにはかなり工夫をする必要があります。応募にあたり、自身の作品の独創性について、今一度深く考えてみていただければと思います。
ショートショートは、今まさに進化の最中です。これからも、挑戦心に溢れた作品に出会えることを楽しみにしています。
とても楽しく選考させていただきました。
私、このお話とっても好き!って心から思える作品が、六つくらいありましたし。(賞の選考をやっていて一番嬉しいのは、「これを推したいぞ」っていうお話に巡りあうことです。それが六つもあったら、とても幸せ。)
同時に、ショートショートって難しいなあって思いました。何たって、短いから。短すぎるから。他の小説の賞と違い、ほぼ、アイディアのみで、受賞作が決まってしまう。
いえ、勿論、この長さでも、文章がうまいひと、センスがいいひとは判るんですが、そういうひとに加点する余地が、あんまり、ない。
だから、小説家志望でこの賞に応募して落ちた方、それは、今回のネタが今ひとつだったからって可能性あります。また、小説家になるつもりなんてまったくなくても、アイディアさえよければ、受賞する可能性があります。
いろんな意味で、かなり特異な賞なので。この後も、注目してゆきたいと思っております。(写真提供:新潮社)
候補作を読んでいて毎年思うのですが、本当に皆さん発想が素晴らしいですね。思ってもみなかったアイディアや、よく知られているけどこういう使い方もあるのかと驚かされるアイディアが、たくさんありました。正直、発想だけならプロもアマチュアもほとんど差はないでしょう。
問題は発想の調理法にあります。どんなにいいアイディアでも、それをうまく生かせる書き方ができないと読者の心には響きません。今回、それを実感させられる作品がいくつかありました。ああこれ、もっとうまく書けていたら評価が全然違ってくるのになあ、というような。
つまりはストーリーテリングの技なのです。僕がトータルで高評価を付けたものは、ストーリーを面白く語っている作品でした。
そのあたりのことに注意し、作品を磨いていただけたら、さらに素晴らしいものになると思います。
本年もショートショート大賞の二次審査をやらせて頂きました。もちろん、仕事だったのですが、こんな楽しい時間を仕事にさせて頂いていいのだろうかと思ってしまったほどです。どれも捨てがたい味がありましたが、心を鬼にして採点させて頂きました。このようなときは、既存のショートショートとしては優等生的な作品よりも私自身の好みにどストライクなものに高得点を与えたつもりでいます。
そして、二次審査は他の審査員の皆さんと合わせて集計され、三十作品に絞り込まれました。その結果を見ると、私が高得点をつけた作品はすべてそこに入っているではありませんか! これらの作品にほとんど差はない! ということは、他の審査員の方たちとセンスが私、似ているんだなぁ。ショートショートを書きあげたら、より多くの周りの方に読んでもらうこと。一人でも多く面白がってくれる作品がやはり“本物”なんだと確信しました。
今回も二次審査に参加させてもらいました。いつも思いますが、小説の審査は難しい、ことにショートショートは。なにしろ短いですから、少々無茶をやってもその枚数の中なら成立します。そしてそれができることが、ショートショートという形式のいちばんのおもしろさでしょう。結局のところ、自分がおもしろいと感じたものに高い点数をつける、という当たり前のことしかできません。今回もそうしました。そしてこれもいつも書いていることですが、この結果が絶対的な評価ではありません。小説には、そしてショートショートには、そんな絶対的な基準などありません。自分はおもしろいと思っているのに評価が得られないことはよくあります。それでも、それをおもしろいと自分自身で思えるのなら書き続けてください。書く方法も書き続ける方法もそれしかないと思います。初めてショートショートを書いた高校生のときから今までずっと、私もそうしてきました。
「第3回ショートショート大賞受賞作品集」は
全国の協力書店店頭にて無料配布いたします。
ぜひご覧ください。
※掲載作品は、大賞1作、優秀賞3作となります。審査員特別賞作品は掲載されません。
※書店様以外の個人様からのご注文は一切受け付けておりません。ご了承ください。その他販売書店様で配布を希望される場合は、当事務局までお問い合わせください。 ショートショート大賞事務局 お問い合わせはこちら
(2018年7月12日現在)
審査員長田丸雅智