第1回 ショートショート大賞 受賞作決定!

第1回ショートショート大賞は、2015年11月19日に作品の募集を開始し、2016年2月29日に締め切りました。
応募総数7,817篇。第一次審査通過作品は100篇、第二次審査通過作品は27篇。
5月13日に最終審査会を開催し、慎重かつ白熱した審議の結果、大賞1作、優秀賞3作を決定しました。

大賞

『瓶の博物館』 堀 真潮(ほり・ましお)

優秀賞

  • 『雨女』 髙山幸大(たかやま・こうだい)
  • 『靴に連れられて』 梨子田 歩未(なしだ・ふみ)
  • 『紙魚(しみ)の沼』 行方 行(なめかた・ぎょう)

最終審査作品(27篇)

「Bar自分」秋華林/「通り柳」東屋千歳/「川の女神」上甲祥久/「夢の囚人」小林栗奈/「かわいい手品」めらめら/「靴に連れられて」梨子田歩未/「紙魚の沼」行方行/「最強の殺し屋」大場鳩太郎/「すばらしい未来」志水孝敏/「ゴミ箱」なつみどり/「四角い世界」松本更紗/「クリスマスプレゼント」深田亨/「幸福ドロップ」梨子田歩未/「かしずく、手」野月よひら/「幸福チェア」南口昌平 /「雨女」髙山幸大/「骨の話」石黒みなみ/「瓶の博物館」堀真潮/ 「ネジ」荒木くい/「ロープ」須堂修一/「天の羽衣」今村昌弘/「ネタ切れ」矢田砂尋/「右手の夫婦」11010式/「とうふメンタル」米洗ミノル/「流星ソムリエ」吉澤亮馬/「女流絵師家守話」あまね/他1篇

大賞

瓶の博物館 堀 真潮

堀 真潮(ほり・ましお)フォト

堀 真潮(ほり・ましお)

甲南大学文学部卒業。夫と息子2人の4人家族。2015年10月、伊勢丹OTOMANAの田丸雅智氏によるショートショート講座に参加し、初めてショートショートを書く。現在の目標は、略歴に載せられるような作品を書くこと。

受賞のことば

この度は栄えある賞をちょうだいし、感謝と喜びの気持ちでいっぱいです。
まずは執筆に協力してくれた家族、パソコンが苦手なためにご迷惑をおかけしてしまった賞のスタッフの方々、そして私の作品を選んでくださった皆様に改めて御礼を申し上げます。
正直、この年齢になってこのような人生の転機が訪れるとは思いませんでした。戸惑いがないと言えば噓になりますが、与えていただいたチャンスはしっかり活かしたいと思いますので、宜しくお願いします。

講評

田丸雅智(審査員長)

読後、唸るよりほかありませんでした。どんどん引き込まれ、圧倒的な世界観に酔いしれ、クライマックスでぞわっとし、夢から覚めたあとも美しい余韻が長く残りました。次々に繰り出されるアイデアとその描き方も秀逸で、作品の雰囲気を盛り上げるのに効果をあげています。文章に初々しさは残りますが、登場する固有名詞をたとえ読者が知らずとも、想像で補えるようきちんとフォローされているあたりに、とても好感が持てます。作者が豊かな人生を歩まれてきたのであろうことは明らかで、他の作品も十分に書けるはずだと確信しました。今後、どういった作品を読ませてくれるのか、楽しみでなりません。

キノブックス編集部

まずは作品全体に漂う幻想的な美しさに強く心惹かれました。さまざまな形や色をした瓶が、置かれていた場所の空気を記憶にとどめていて、鑑賞者は内部に入ることでその記憶を音とともに追体験できるというロマンチックな発想は秀逸でした。また、瓶の中に入る方法がリストバンドをかざす、というのも今の時代ならではで違和感なく受け入れることができ、本当にあるのではないかと思わせ、読み手にフィクションということを忘れて物語に集中させる助けとなっています。「薄荷水」、「深い赤の紙に金色で文字が打たれ」たチケット、「音が降りてくる」など、作品全体の雰囲気を壊さぬよう、選ぶ言葉や表現にも細部まで配慮が行き届いているなと感じました。ただ、オチとなる最後の一文については世界観を守るのか、あるいは壊すのか賛否が分かれましたが、群を抜いた美しいアイデアを重視し、最終的には満場一致の選出となりました。

優秀賞

雨女 髙山幸大

髙山幸大(たかやま・こうだい)フォト

髙山幸大(たかやま・こうだい)

1980年、福岡市博多区生まれ。2女の父。
グラフィックデザイナー、雑誌編集者、アートディレクターとして仕事する中でコピーライティングを学ぶ。本作は初めて執筆したショートショート作品。

受賞のことば

第1回という重要な機会での受賞を光栄に感じるとともに、大変恐縮しております。優秀賞に決まったとご連絡をいただいた日は、前後の夏日が噓のような激雨。壊れた傘を眺めながらしみじみと喜びがこみ上げたとともに、「雨女」と重なる偶然をなんだか不思議に感じました。作品のモチーフとなった妻にも感謝。これからもキテレツな世界を愛し、文字にすることを楽しみたいと思います。この度は誠にありがとうございました。

講評

田丸雅智(審査員長)

ネーミングセンスが圧倒的で、候補作の中でも一人抜きんでていました。途中でさりげなく差し込まれるセリフもウィットに富んでいて、思わずニヤリとしてしまいます。ただ、結末がやや物足りず、欲を言えばその点だけ、もうひとひねりあればと感じます。しかし、別の作品もぜひ読んでみたいと強く思わされた作品でした。

キノブックス編集部

一読した印象で女性の作品と思い込んでいたところ、後に男性と知り驚きました。ではなぜ「雨男」でなかったのかは物語が進むにつれてわかりますが、主要な登場人物が皆女性でもまったく違和感なく読み進められたところに確かな筆力を感じます。雨女のタイプ分けや社長の言葉など、設定がしっかりしていてユーモアもあり、終始楽しんで読むことができました。作中、最も強烈だったのはアレルのセリフ「私の前で、何本の傘が骨だけになったと思ってるんだ」。これには主人公同様に選者もしびれずにはいられませんでした。惜しむらくは最後の数行がふわっとしたこと。アレルがいなくなったことで問題が起き始めるとか、「晴れ女」との覇権争い予感させるなど物語の流れが途切れない工夫があるともう一段レベルが上がる作品だと思いました。今後に期待です。

靴に連れられて 梨子田 歩未

梨子田 歩未(なしだ・ふみ)フォト

梨子田 歩未(なしだ・ふみ)

1990年、アメリカ合衆国バージニア州シャーロッツビル生まれ。長野県松本市育ち。
長野県松本深志高等学校卒業。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。
現在、ショートショート研究会所属。研究会初のアンソロジー本『ネコ氏の遊園地』を刊行。

受賞のことば

優秀賞に選んでいただき、ありがとうございます。審査に関わったすべての方に感謝申し上げます。大学時代からの創作仲間との合言葉「かたつむりのようにゆっくりと、でも確実に進む」。その歩みが今回の受賞につながったと思っています。また、創作の励みになったショートショート研究会の個性豊かなメンバーにもこの場をお借りして、アリが十匹。ショートショートの読む書く両方の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいです。

講評

田丸雅智(審査員長)

ああ、いいなぁ…と、温かく幸せな気持ちにさせてくれる作品でした。靴というモチーフはよく使われ、アイデアにもそれほどの新しさはありませんが、その活かし方、ディティールの描き方が秀逸です。逆に言えば、アイデア面で大きな伸び代があり、今後が楽しみです。ストーリーがすっと頭に入ってくるので、ごく普通の文章のように思えますが、飽きさせない筆力は本物であり、本作にとどまらず他の作品も書けるでしょう。

キノブックス編集部

文体に別段特徴はなく、また「靴」というアイテムにも新鮮さは感じられないのに気が付くと作品に入り込んでいたのは、主人公の日常にリアリティを持たせる描写に優れているからでしょう。例えば「深いため息が暗い部屋に広がり、体が一段とベッドのマットレスに沈みこむ」や「七コール目を数えたところでつながった」、「この弁当は失敗だった、そう思いながらも、残さず食べた」など、短い作品ながら具体例には枚挙にいとまがありません。爽やかな読後感のエンディングも好印象でした。反面、こうすればもっとよくなるのにと思わせる惜しいところも散見されたので、細部にまで持ち前の描写力を行き渡らせることができれば飛躍的によくなるという可能性を感じ、選出となりました。

紙魚(しみ)の沼 行方 行

行方 行(なめかた・ぎょう)フォト

行方 行(なめかた・ぎょう)

1974年、熊本県水俣市生まれ。東北、北海道と移り住み、いまは東京在住。
趣味は自転車でサイクリングコースを無駄に往復すること。左利き。

受賞のことば

ショートショートをはじめて書いたのは小学生のころでした。といっても作文で、『あまんじゃく』という演劇中に舞台裏から布を放らなければならない場面で近くになかったのでクラスメイトに裸になってもらいその上着を投げたという噓でオチをつけたら先生に怒られて没になったというもので、それがいまではこんな賞をいただけて心の底から嬉しいです。ありがとうございました。

講評

田丸雅智(審査員長)

非常に優れた作品で、早々に満場一致で優秀賞以上の受賞が決まりました。次々に繰り出されるアイデアに引き込まれ、早くページをめくりたくなり、いつしか主人公と同じように「魚」を追いかけている自分がいます。漢字を使うというアイデア自体は江坂遊「喉が渇くと」や拙作「母の米」などにありますが、また違った味わいです。次の作品で、作者がどういう手を使われるのか、ワクワクします。

キノブックス編集部

読み終えた後からそのおもしろさ、すごさがじわじわと追いかけてきて、すぐに再読したくなりました。古本屋で購入した文庫本が『魚』の泳ぐ沼の役割を果たしているわけですが、そのことをわざわざ説明せず、また主人公がペンと線を使って『魚』を釣ることを思いつくに至るまでの心理描写もないなど、バランスよく無駄をそぎ落としてあるので、実際には起こりえないことながら非常に現実的で臨場感があり、まるで目の前で起きていることのように感じさせてしまう、ハイレベルな良作です。漢字を使うアイデアと物語の設定が無理なく見事にはまった好例と言えるでしょう。他にどんなアイデアを持っているのか、早く次を読みたいと思わせてくれる書き手です。

総評

田丸雅智(審査員長)

まずは応募してくださったみなさまへ、関係者を代表し、深く感謝いたします。魂のこもった力作の数々に、とてもエキサイティングな時間を過ごさせていただきました。七八一七作品にも上った応募数や、集まった作品のクオリティーの高さから、改めてショートショートというジャンルへの需要、そして可能性を感じずにはいられませんでした。本当にありがとうございました。

キノブックス編集部の方々と共に行った最終審査会も、非常に白熱したものとなりました。どの作品を選出するか長時間にわたり一同で悩み抜き、最終的に素晴らしい作品を見出すことができました。それらは同時に、新しいショートショートの世界を切り拓き得る作品たちであるとも信じています。受賞者のみなさまの今後のご活躍が楽しみでなりません。

一方で、応募作品全体を振り返ってみますと、多くの作品に共通する「類想」が見受けられる場面もありました。たとえば、「夢」「幸・不幸」「神(死神)」「殺し屋」「悪魔」「天使」「ロボット」などを扱った作品が多数ありましたが、これらの題材は扱いやすい分、似た発想に陥りがちという傾向があります。そこを、いかに抜け出すか。もしもこれらの題材で書くなら先行作品をよく研究したうえで、覚悟を持って挑戦する必要があります。それと関連し、アイデアにもう少し新しさが欲しいなと感じる作品もありました。執筆をする際には、少なくとも「そのアイデアは新しいか? オリジナリティーはあるか?」という観点を持つことは大切ですので、ぜひ深く考えてみていただければと思います。また、アイデア自体や展開の仕方の面で必然性に欠ける作品や、あるいは逆に、ナンセンスな方向で突き抜け切れていない惜しい作品も多く見られました。合わせて、執筆にあたり意識してみていただければと思います。

ともあれ、非常に刺激的な時間を過ごさせていただいたことに違いはありません。重ね重ね、御礼申し上げます。

次回も、可能性に満ちた作品を読めることを心より楽しみにしています。

2次審査員より

井上雅彦

にやり、とするか。天を仰ぐか。
どちらかなんだな。逸品に出会った時の、私の反応。どちらが上でも下でもない。両方同時に来ることもある。どちらかひとつの時もある。ひとつでも良し。両方でも良し。「その瞬間」に出会いたいが故に、ショートショートと名のつくものばかりを読んできた。今回、ありがたいことに、「その瞬間」と出会えた。もちろん、他の選考委員が選んだものと同じ作品とは限らない。そこがショートショートの面白いところ。理想を言えば、各自の選んだ「逸品」を公表し、アンソロジーとして世に問う方法が望ましいのだが、それは主催側への提案として挙げておきたい。
ショートショートの未来? それはショートショートの過去になること。自分の書くものが過去の遺産と堂々と競いあうことができるか否か。にやりとさせるか。天を仰がせるか。期待していいですか? 現在のあなたに。

太田忠司

手許に届いた一次審査通過作品を読むと、アイディアはどれも面白く、楽しませてくれるものも多かったのです。正直なところ、ショートショートという分野において着想という点ではアマチュアもプロもそんなに差はないのだなと思いました。
でもそのアイディアを小説という形にしていくにはストーリーを組み立てる才能と技術が必要となります。ここで実力差が大きく出たようです。思いついたことを読ませる力と、それをまとめて印象的な結末に導く力。そこがしっかりしていれば、たとえ目新しいアイディアでなくても読ませる作品を書き上げることができます。
読ませていただいた作品の中には光るものが多くありました。この方々が書き続けてくれれば、ショートショートの将来は明るいものになるよなあ、と頼もしく思いました。

北野勇作

小説を読むという行為にのめり込むきっかけになったのはショートショートだったし、小説を書くという行為のきっかけになったのもショートショートでした。そして、今もやっぱりショートショートを読んだり書いたりしています。階段の一段目になることができて、でも同時にどこまでも続いている階段でもあることができるのがショートショートなのだろうと思います。この賞もそういう階段のひとつになれればいいと思うし、自分がその中の役割のひとつになれれば、ショートショートというものへの恩返しになるのでは、と審査を引き受けたのですが、恩返しというよりも、自分がなんとかやっていくのが精一杯、というのが正直なところ。書くのも難しいですが、読むのも難しいですね。今回審査して、つくづく思いました。もちろん、それがおもしろいところでもあるわけですが。

冊子フォト

受賞作が冊子になります!

「第1回ショートショート大賞受賞作品集」は
6月中旬頃から全国の下記協力書店店頭にて
無料配布いたします。ぜひご覧ください。

※書店様以外の個人様からのご注文は一切受け付けておりません。ご了承ください。その他販売店様で配布を希望される場合は、当事務局までお問い合わせください。 ショートショート大賞事務局 お問い合わせはこちら

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(2016年7月4日現在)